美容院メニューの原価率を考える:適正価格と粗利の設計ガイド
メニューの原価率を見える化:適正価格と粗利の設計ガイド

メニューの原価率を見える化:適正価格と粗利の設計ガイド

更新日:2025年11月10日

サロン経営において、メニュー価格の設定は売上を左右する重要な判断です。しかし、多くの新規オーナーが「この価格で本当に利益が出るのか」と不安を感じています。実は、美容サロンの材料費は売上の5〜10%が適正水準で、残りの90〜95%が粗利益として人件費や家賃、広告費を賄う原資になります。本記事では、原価率の考え方から適正価格の設計方法まで、経営の基礎をわかりやすく解説します。
【大事なこと】

  • 美容サロンの材料費(変動費)の適正比率は売上の5〜10%。これを超えると利益を圧迫します
  • 粗利益(売上−変動費)から固定費(人件費50%、家賃10〜15%、広告費5〜10%)を賄う構造です
  • 客単価向上は原価率を下げずに売上を増やす有効な手段。高付加価値メニューの導入が鍵です
  • 損益分岐点(BEP)の把握により、最低限必要な売上高と客数が明確になります
  • LTV(顧客生涯価値)を意識した価格設計で、長期的な収益性を確保できます

原価率の基本:美容サロンの費用構造を理解する

サロン経営の収益性を正しく理解するには、まず費用を「変動費」と「固定費」に分けて考える必要があります。

変動費と固定費の違い

変動費とは、売上に比例して増減する費用のことです。美容サロンでは、カラー剤やパーマ液、トリートメント剤といった材料費が代表的な変動費にあたります。お客様が来店して施術を行うたびに消費されるため、施術回数が増えれば変動費も増加します。

一方、固定費は売上の増減に関わらず毎月一定額が発生する費用です。店舗の家賃、スタッフの固定給、水道光熱費の基本料金、広告宣伝費などが該当します。これらは売上がゼロでも支払いが必要なため、経営の安定性に大きく影響します。

美容サロンの標準的な費用比率

業界標準として、美容サロンの費用構造は次のような比率が目安とされています。材料費などの変動費が売上の5〜10%、人件費が45〜55%、家賃が10〜15%、広告宣伝費が5〜10%、水道光熱費や通信費が2〜4%です。そして理想的な営業利益として15〜20%を確保することが、健全な経営の指標となります。

この構造から分かるのは、美容サロンは固定費比率が高いビジネスだということです。人件費と家賃だけで売上の55〜70%を占めるため、売上が変動すると利益への影響が大きくなります。そのため、安定した売上を確保することが何よりも重要になるのです。

【要点まとめ】

  • 変動費(材料費)は売上に比例、固定費(人件費・家賃等)は売上に関わらず発生する
  • 美容サロンの材料費は売上の5〜10%が適正水準
  • 人件費45〜55%、家賃10〜15%と固定費比率が高いビジネス構造
  • 営業利益15〜20%の確保が健全経営の目安

原価率の計算方法と適正価格の設定

メニュー価格を決める際、まず把握すべきは各メニューの原価率です。原価率とは、売上に対する変動費の割合を示す指標で、「変動費÷売上高×100」で計算されます。

メニュー別の原価率計算例

例えば、カラーメニューで使用する薬剤が1回あたり500円、施術料金が5,000円なら、原価率は10%です(500円÷5,000円×100)。トリートメントで薬剤が300円、施術料金が3,000円なら同じく10%となります。

この原価率を全メニューの平均で5〜10%に収めることが、収益性の確保につながります。もし個別のメニューで15%や20%といった高い原価率になる場合は、価格の見直しか、使用する薬剤の量や種類の調整を検討する必要があります。

粗利益の考え方

売上から変動費を差し引いた金額を「粗利益」と呼びます。例えば月商80万円のサロンで変動費率が10%なら、変動費は8万円、粗利益は72万円です。この72万円から人件費、家賃、広告費などの固定費を支払い、残った分が営業利益になります。

つまり、原価率を低く抑えることは、固定費を賄うための粗利益を確保することに直結します。材料費を削りすぎてサービスの質が落ちてはいけませんが、適正な範囲でコスト管理を行うことが重要です。

客単価向上による収益改善

原価率を維持しながら収益を上げる最も効果的な方法は、客単価の向上です。例えば、カットのみで客単価5,000円(材料費200円、原価率4%)の顧客に、トリートメント3,000円(材料費300円、原価率10%)を追加提案すると、客単価は8,000円になり、材料費は合計500円(原価率6.25%)となります。

このように、高付加価値メニューを組み合わせることで、原価率を適正範囲に保ちながら1人あたりの売上を増やせます。特に、施術時間が短く材料費も抑えられるクイックスパや、利益率45%と高い店販品の販売強化は、粗利益の拡大に大きく貢献します。

【要点まとめ】

  • 原価率=変動費÷売上高×100で計算。全体で5〜10%を目標にする
  • 粗利益(売上−変動費)から固定費を支払う構造を理解する
  • 客単価向上は原価率を維持しながら粗利益を増やす有効策
  • 高付加価値メニューと店販品(利益率45%)の組み合わせが効果的

損益分岐点(BEP)を理解して必要売上を把握する

損益分岐点(BEP:Break-Even Point)とは、売上と費用が等しくなり、利益がゼロになる売上高のことです。この数字を把握することで、「最低限これだけ売らないと赤字になる」という経営上の基準ラインが明確になります。

BEPの計算式と実例

BEPの計算式は「固定費総額÷(1−変動費率)」です。例えば、月の固定費が56万円(家賃15万円、オーナー報酬30万円、広告費5万円、その他6万円)、変動費率が15.5%のサロンの場合、BEP売上高は約66.3万円となります(56万円÷0.845=66.3万円)。

もし平均客単価が8,000円なら、BEPに到達するために必要な客数は約83人です(66.3万円÷8,000円=82.9人)。月商80万円であれば100人来店が必要ですが、そのうち約83人分は固定費を賄うための売上で、残りの17人分がようやく利益になる計算です。

目標利益から逆算する必要売上

BEPは利益ゼロの地点ですが、実際には利益を出すことが経営の目的です。例えば月20万円の利益を目標とするなら、「(固定費56万円+目標利益20万円)÷0.845=約89.9万円」が必要売上高となります。現状の月商80万円との差額9.9万円をどう埋めるか、具体的な施策を考える必要があります。

この差を埋める方法は3つです。客数を増やす(新規集客・リピート率向上)、客単価を上げる(高付加価値メニュー・店販)、または固定費を削減するかです。多くの場合、固定費の大幅削減は難しいため、客数と客単価の両面からアプローチすることになります。

安全余裕率で経営の安定性を測る

安全余裕率とは、「(実際の売上−BEP売上)÷実際の売上×100」で計算される指標です。月商80万円でBEPが66.3万円なら、安全余裕率は約17.1%です。この数字が高いほど、売上が多少減っても利益を確保できる余裕があることを示します。

業界平均では安全余裕率20%以上が望ましいとされています。15%を下回ると、景気変動や季節要因で簡単に赤字転落するリスクが高まります。定期的にBEPと安全余裕率を計算し、経営状態を客観的に把握することが重要です。

【要点まとめ】

  • BEP=固定費÷(1−変動費率)で、利益ゼロになる最低売上が分かる
  • 目標利益を固定費に加えて逆算すると、必要売上高が明確になる
  • 客数×客単価の両面から目標達成の施策を考える
  • 安全余裕率20%以上を確保して経営の安定性を高める

客単価と客数の最適バランスを考える

売上は「客数×客単価×来店頻度」で構成されます。この3要素のバランスをどう設計するかが、サロン経営の戦略を左右します。

客単価向上のメリットと注意点

客単価を上げる最大のメリットは、同じ客数でも売上が増え、相対的に原価率が下がることです。例えば客単価5,000円を8,000円に上げられれば、月100人の来店で月商は50万円から80万円に増加します。施術時間や労力がそれほど変わらなければ、効率的に収益を伸ばせます。

ただし、客単価向上には「価格以上の価値」を顧客に提供することが絶対条件です。単なる値上げは顧客離れを招きます。高単価メニュー(8,000〜10,000円のトリートメントやヘッドスパ)を導入する際は、明確な効果と顧客の悩み解決を訴求し、スタッフ自身がその価値を体感して自信を持って提案できる体制を整えることが成功の鍵です。

新規集客とリピート率のバランス

新規顧客の獲得は重要ですが、集客コスト(CPA)がかかります。一方、既存顧客のリピート利用は追加の広告費がほとんどかからず、収益性が高くなります。理想は新規顧客のリピート率50%、既存顧客のリピート率90%と言われています。

顧客生涯価値(LTV)は「平均客単価×平均来店頻度×平均継続期間」で計算されます。例えば客単価8,000円、年5回来店、3年継続なら、LTVは12万円です。もし新規獲得コスト(CPA)が1万円なら、LTV/CPA比率は12倍となり、非常に健全な投資と言えます。一般にこの比率は3倍以上が望ましいとされています。

来店頻度を上げる施策

カットやカラーは2〜3ヶ月サイクルですが、トリートメントやヘッドスパは月1回程度の提案が可能です。秋の乾燥ケアメニューなど、季節に応じたケア需要を捉えて来店サイクルを短縮できれば、年間LTVは大きく向上します。LINE公式アカウントやメールでのフォローアップも、次回来店を促す効果的な手段です。

【要点まとめ】

  • 売上=客数×客単価×来店頻度。3要素のバランス設計が重要
  • 客単価向上は価格以上の価値提供が前提。高付加価値メニューが鍵
  • LTV(顧客生涯価値)を最大化し、CPA(獲得コスト)とのバランスを取る
  • ケアメニューで来店頻度を上げ、年間LTVを向上させる

広告費の適正配分と投資対効果(ROI)

広告宣伝費は固定費として扱われますが、単なる経費ではなく、将来の売上を生み出すための戦略的投資です。適正な広告費率と、その効果を測定する仕組みが必要です。

業界標準の広告費率

美容サロンの広告費率は、経営が安定した既存店で売上の5%前後、開業初期や成長期には10%程度が一般的です。例えば月商80万円なら4〜8万円が目安となります。大手集客サイトへの掲載料、SNS広告、チラシ作成費などを合計して、この範囲に収めることが理想です。

ただし、広告費率の適正性は、獲得した顧客のLTVとの比較でのみ判断できます。広告費10%でも、獲得した顧客のLTVが高く、長期的に収益を生むなら正当化されます。逆に、広告費5%でも低LTV顧客ばかりなら投資効率が悪いと言えます。

CPAとLTVの関係

CPA(顧客獲得単価)は「広告費÷獲得顧客数」で計算されます。広告費20万円で20人獲得ならCPAは1万円です。このCPAが、獲得した顧客のLTVを大きく下回るかどうかが投資判断の基準になります。

理想は、LTVがCPAの3倍以上です。LTV12万円に対しCPA1万円なら、回収比率は12倍で非常に健全です。一方、LTV3万円でCPA1万円なら3倍で最低ライン、2倍以下なら改善が必要です。集客チャネルごとにCPAとLTVを測定し、投資効率の高いチャネルに予算を集中させることが重要です。

リピート施策への投資配分

新規集客だけでなく、既存顧客のリピート率を高める施策(CRMシステム、フォローアップの仕組み、接客品質向上)への投資も必要です。リピート率が向上すればLTVが伸び、結果として許容できるCPAの上限も上がります。新規集客とリピート施策のバランスを、LTVへの貢献度で判断することが、中長期的な収益最大化につながります。

【要点まとめ】

  • 広告費率は安定期5%、成長期10%が目安。ただしLTVとの比較が重要
  • CPA(獲得単価)はチャネル別に測定し、投資効率を評価する
  • LTV/CPA比率3倍以上が健全。2倍以下なら改善が必要
  • 新規集客とリピート施策の両方に適切に投資配分する

データ分析で経営を「見える化」する

勘と経験に頼る経営から脱却し、データに基づく意思決定を行うことが、持続的な成長には不可欠です。

KPI(重要業績評価指標)の設定

売上目標を達成するには、それを構成する要素をKPIとして数値化し、定期的にモニタリングする必要があります。新規集客数、リピート率、客単価、来店頻度、店販購入率などが代表的なKPIです。

例えば、「月商100万円達成」という目標なら、客単価8,000円×月間125人が必要です。さらに、新規30人・リピート95人という内訳を設定し、それぞれの獲得施策を具体化します。店販購入率20%を目標にするなら、125人中25人が購入する計算です。このように目標を分解することで、どの施策に注力すべきかが明確になります。

POSシステムと予約システムの活用

デジタルツールは単なる便利な道具ではなく、経営判断の根拠となるデータを蓄積する基盤です。POSシステムは会計を効率化するだけでなく、顧客の購買履歴や来店頻度を分析し、リピーターの傾向や高単価メニューの購買層を可視化します。

このデータ分析を通じて、ターゲット層に合わせた広告戦略や、顧客のニーズに合わせたメニュー提案が可能になります。在庫管理システムと連動させれば、過去の販売履歴から需要予測を立て、戦略的な店販プロモーションも実施できます。

継続的なPDCAサイクル

KPI設定(Plan)、施策実行(Do)、結果測定(Check)、改善策立案(Action)のPDCAサイクルを回すことが、データ駆動型経営の本質です。月次でKPIを確認し、目標に届かない項目があれば原因を分析し、翌月の施策に反映させます。

例えば、新規集客数は目標達成しているのに売上が伸びないなら、客単価かリピート率に問題があると判断できます。客単価が低ければ高付加価値メニューの提案強化、リピート率が低ければフォローアップ施策の見直しが必要です。このように、データが示す課題に対して具体的な改善策を打ち続けることが成長の原動力になります。

【要点まとめ】

  • 売上構成要素(客数・客単価・来店頻度)をKPIとして数値化する
  • POSシステムは顧客データ分析と経営判断の基盤として活用する
  • 月次でKPIを確認し、PDCAサイクルを継続的に回す
  • データが示す課題に対して具体的な改善策を実行し続ける

まとめ:原価率管理と適正価格設計で収益性を高める

美容サロン経営において、原価率の管理と適正価格の設計は、収益性を確保するための基盤です。材料費などの変動費を売上の5〜10%に抑え、残りの粗利益から固定費を賄い、15〜20%の営業利益を確保するという費用構造を理解することが第一歩です。

損益分岐点(BEP)を把握することで、最低限必要な売上高と客数が明確になり、経営の安全性を客観的に評価できます。目標利益から逆算した必要売上を、客数・客単価・来店頻度の3要素に分解し、具体的なKPIとして設定することで、戦略的な施策立案が可能になります。

客単価向上は、原価率を維持しながら粗利益を増やす最も効果的な手段です。高付加価値メニュー(8,000〜10,000円のトリートメントやヘッドスパ)と高利益率の店販品(利益率45%)を組み合わせることで、ケアサービス比率50%、店販購入率20%という成功サロンのベンチマークに近づけます。

広告費は戦略的投資として位置づけ、CPA(顧客獲得単価)とLTV(顧客生涯価値)の比率を常にモニタリングします。LTV/CPA比率3倍以上を維持し、投資効率の高い集客チャネルに予算を集中させることが重要です。同時に、リピート率向上施策にも適切に投資配分し、LTVを最大化する仕組みを構築します。

最後に、POSシステムや予約システムを活用したデータ分析により、経営を「見える化」し、勘ではなくデータに基づく意思決定を行うことが、持続的な成長の鍵となります。月次でKPIを確認し、PDCAサイクルを回し続けることで、着実に収益性を高めることができます。

まずは自店の現状を数字で把握することから始めてみましょう。固定費と変動費を正確に分類し、BEPを計算し、目標とする営業利益率から必要売上を逆算する。この一連の分析が、あなたのサロン経営を次のステージへ導く第一歩です。

FAQ:よくある質問

Q. 美容サロンの材料費は売上の何パーセントが適正ですか?
A. 美容サロンの材料費(変動費)は売上の5〜10%が業界標準です。この範囲に収めることで、人件費や家賃などの固定費を賄い、15〜20%の営業利益を確保できる健全な経営が可能になります。10%を大きく超える場合は、メニュー価格の見直しや薬剤使用量の適正化を検討する必要があります。
Q. 損益分岐点(BEP)はどうやって計算するのですか?
A. BEPは「固定費総額÷(1−変動費率)」で計算されます。例えば固定費が月56万円、変動費率が15%なら、BEPは約65.9万円です(56万円÷0.85)。この金額が、利益ゼロになる最低売上高を示します。平均客単価で割ることで、必要な最低客数も算出できます。
Q. 客単価を上げるにはどんな方法がありますか?
A. 客単価向上には、高付加価値メニューの導入と店販品の販売強化が効果的です。具体的には、8,000〜10,000円のトリートメントやヘッドスパなど、明確な効果を訴求できるメニューを追加します。また、利益率45%と高い店販品(ホームケア製品)を、施術の価値を維持する必需品として提案することで、客単価と粗利益の両方を向上させられます。
Q. 広告費は売上の何パーセントかけるべきですか?
A. 美容サロンの広告費率は、安定期で売上の5%前後、成長期で10%程度が目安です。ただし、重要なのは金額ではなく投資効果です。獲得した顧客の生涯価値(LTV)が顧客獲得単価(CPA)の3倍以上あれば、広告投資は健全と判断できます。LTV/CPA比率を定期的に測定し、投資効率の高いチャネルに予算を集中させることが重要です。
Q. 原価率が高いメニューは廃止すべきですか?
A. 原価率だけで判断するのは早計です。集客力のあるメニューなら、来店のきっかけとして維持し、店内で高利益率のメニューや店販品を追加提案する戦略が有効です。また、セットメニュー化により全体の原価率を適正範囲に収める方法もあります。個別メニューではなく、サロン全体の原価率とLTV(顧客生涯価値)で収益性を評価することが大切です。

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