店販の社員購入、大丈夫ですか|「商品の買い取り強要」がパワハラ指針に明記されました
更新日:2026年9月14日
- 改正パワハラ指針に「商品の買い取り強要等」の記述が加わり、2026年10月1日から適用されます。
- 新しい義務が増えたのではなく、もともとパワハラ防止措置義務の対象だったことが明記されたものです。
- 該当するのはパワハラの3要素をすべて満たす場合で、社内販売そのものが禁止されたわけではありません。
- 判断の分かれ目は「当該労働者の自由な意思に反して」購入させているかどうかです。
- 購入代金を給与から天引きする場合、賃金控除に関する労使協定がなければ労働基準法違反になります。
パワハラ指針に何が書き加えられたのか
結論として、改正パワーハラスメント指針には次の一文が加えられました。適用日は2026年10月1日です。
「また、商品の買い取り強要等(事業主が労働者に対し、当該労働者の自由な意思に反して自社の商品・サービスを購入させる行為)に関連する言動も、⑴の①から③までの要素を全て満たす場合には、職場におけるパワーハラスメントに該当する。」
ここで重要なのは2点あります。ひとつは、指針が「自爆営業」という言葉を使っていないこと。指針上の表記はあくまで「商品の買い取り強要等」です。もうひとつは、「3つの要素をすべて満たす場合には」という条件が付いていることです。
その3つの要素とは、パワハラの定義そのものである、優越的な関係を背景とした言動であること、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること、労働者の就業環境が害されること、を指します。
注意点として、これは新たな禁止規定が作られたわけではありません。事業主のパワハラ防止措置義務そのものは以前から存在しており、その義務の対象に商品の買い取り強要が含まれることが、指針上で明確にされたという位置づけです。「2026年10月から新たに禁止される」という理解は正確ではありません。
- 改正パワハラ指針の適用日は2026年10月1日です。
- 指針上の表記は「自爆営業」ではなく「商品の買い取り強要等」です。
- 該当するのはパワハラの3要素をすべて満たす場合に限られます。
- 新しい義務ではなく、既存の措置義務の解釈が明確化されたものです。
分かれ目は「自由な意思に反して」いるかどうか
結論として、社内販売そのものが禁止されたわけではありません。判断の分かれ目は、指針の文中にある「当該労働者の自由な意思に反して」という部分です。
理由は、指針がこの限定句を置いているためです。スタッフが自分の判断で社員割引を利用して商品を買うことと、断りにくい状況で購入を求めることは、まったく別の話として扱われます。
具体的に、判断が難しくなりやすい場面を挙げます。個人ごとの店販売上目標が設定されていて、未達の場合に本人が自費で買って埋めている。ミーティングで達成状況が読み上げられ、未達者が名指しされる。新商品の入荷時に、全員が試すという名目で一律に購入することになっている。シーズンの売れ残りをスタッフ間で分けている。いずれも、本人が自発的にやっているのか、断れない空気があるのかで評価が変わります。
ここで注意していただきたいのは、指針には「該当しないと考えられる例」の箇条書きが付いていないという点です。パワハラ指針の他の類型には該当例・非該当例が並んでいますが、商品の買い取り強要についてはその形式の例示がありません。したがって、個別の場面が該当するかどうかは、3要素の当てはめによって判断することになります。
あわせて読みたい:- 社内販売や社員割引そのものが禁止されたわけではありません。
- 分かれ目は「自由な意思に反して」購入させているかどうかです。
- 目標未達の穴埋め、名指しでの読み上げ、一律購入は評価が分かれやすい場面です。
- 指針に非該当例の箇条書きはないため、3要素の当てはめで判断します。
指針より前に、行政は労働関係法令の問題点を整理していました
結論として、厚生労働省は指針改正より前の2025年3月に、都道府県労働局・労働基準監督署の名義で専用のパンフレットを公表しています。タイトルは「労働者に対する商品の買取り強要等の労働関係法令上の問題点」です。
理由は、この問題がパワハラだけでなく、複数の法令に関わるためです。パンフレットが挙げている論点は次のとおりです。
- 民法第90条(公序良俗)、第709条(不法行為による損害賠償)
- 労働契約法第15条(懲戒権の濫用)、第16条(解雇権の濫用)、第3条第5項(権利濫用の禁止の原則)
- 労働基準法第24条(賃金の全額払い)
- パワーハラスメント
具体的に問題となるパターンとして、懲戒処分や解雇をちらつかせて購入を求めること、就業規則で自社商品の購入を求めること、達成困難なノルマの設定と不利益な処分を組み合わせることなどが示されています。
注意点として、パンフレットには、使用者が直接強要していない場合であっても、スタッフが高額な商品の購入を繰り返している状況を知りながら放置していた場合には、公序良俗違反や不法行為の可能性があるという趣旨の記述もあります。「本人が勝手に買っている」という説明が通るとは限らない、ということです。
- 厚生労働省が2025年3月に専用のパンフレットを公表しています。
- 民法、労働契約法、労働基準法、パワハラの4方向から問題になり得ます。
- 懲戒や解雇をちらつかせること、就業規則で購入を求めることが問題例です。
- 強要していなくても、繰り返しの購入を知りながら放置した場合は問題になり得ます。
給与天引きには労使協定が必要です
結論として、店販商品の購入代金を給与から天引きするには、賃金控除に関する労使協定が必要です。協定なしの天引きは労働基準法違反になります。
理由は、労働基準法第24条が賃金の全額払いを定めているためです。前述のパンフレットにも、次の記述があります。「労働者に不要な商品を購入させた上で、賃金控除に関する労使協定を締結することなく購入代金を賃金から控除している場合には、賃金の一部を控除して支払うことを禁止した労働基準法違反となります。」
具体例として、スタッフがシャンプーやトリートメントを社員価格で購入し、その分を翌月の給与から引いているサロンは少なくありません。この運用自体が直ちに問題になるわけではありませんが、労使協定を締結していない場合は労働基準法の問題が生じます。締結していれば天引き自体は可能ですが、そもそもの購入が本人の自由な意思にもとづくものかどうかは、別途問われます。
注意点として、労使協定は事業場ごとに、労働者の過半数を代表する者との間で書面により締結します。控除できる項目や範囲も協定に明記が必要です。自店の運用が協定の対象になっているか、この機会に確認しておくことをおすすめします。
あわせて読みたい:- 賃金の全額払いが原則で、天引きには労使協定が必要です。
- 協定なしの購入代金の天引きは労働基準法違反になります。
- 労使協定は事業場ごとに、過半数代表者と書面で締結します。
- 協定があっても、購入が本人の自由な意思によるかは別途問われます。
店販の運用を、10月までにどう整えるか
結論として、店販をやめる必要はありません。整えるべきは「目標の置き方」「評価との接続」「購入の記録」の3点です。
理由は、この3つが「自由な意思に反して」いるかどうかの判断に直結するからです。
1. 目標は個人ではなく店舗単位で置くことを検討する
個人別の店販目標があると、未達の穴埋めが起きやすくなります。店舗全体の目標に切り替える、あるいは金額ではなく提案の回数など行動指標に置き換える方法もあります。目標を持つこと自体が問題なのではなく、未達が個人の不利益に直結する構造が問題になりやすい、という整理です。
2. 人事評価や賞与との接続を確認する
店販売上が評価や賞与の算定に直結している場合、スタッフには自費で買ってでも数字を作る動機が生まれます。評価項目の中での比重を見直すか、自己購入分を集計から除外する運用にするかで、構造そのものを変えられます。
3. 社員購入の記録を残す
誰が、いつ、いくら購入したかを記録し、特定のスタッフに購入が偏っていないかを月次で確認します。偏りが見えたら、本人に事情を確認する。これは「放置していなかった」ことの記録にもなります。
注意点として、これらを進めるときは、スタッフに理由を説明することが欠かせません。「買わせない」という方針は、スタッフにとって歓迎されるものですが、突然の変更は「店販に力を入れなくなった」と受け取られることもあります。何を変え、何は変えないのかを言葉にして共有してください。
【導入サロンの声】クラフト・ワークス様(多店舗展開・トータルビューティ)本社と現場でオペレーションを共有し、早い店舗では3ヶ月で自社予約率が向上。アプリのオンラインショップには反対意見がゼロで、「出社したら自分の売上になっている」とスタッフにも好評だといいます。
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あわせて読みたい:- 店販をやめる必要はなく、目標の置き方と評価との接続を見直します。
- 個人別の金額目標は、未達の穴埋めを生みやすい構造です。
- 自己購入分を集計から除外する運用も選択肢になります。
- 社員購入の記録を残し、偏りがないか月次で確認します。
まとめ:禁止されたのは「強要」であって、店販ではありません
2026年10月1日から適用される改正パワハラ指針に、「商品の買い取り強要等」に関する記述が加わりました。ただし、これは新しい義務ではなく、既存のパワハラ防止措置義務の対象であることが明記されたものです。該当するのはパワハラの3要素をすべて満たす場合に限られ、社内販売や社員割引そのものが禁止されたわけではありません。
実務で確認したいのは3点です。個人別の店販目標が未達の穴埋めを生んでいないか。店販売上が評価や賞与に直結していないか。購入代金の天引きに労使協定があるか。この3つを整えておけば、指針の適用に慌てる必要はありません。
厚生労働省は指針本体のほか、労働関係法令上の問題点をまとめたパンフレットも公開しています。自店の運用が該当するか判断に迷う場合は、所轄の労働基準監督署や社会保険労務士へご相談ください。
FAQ:商品の買い取り強要について、よくある質問
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