アシスタントの練習時間は労働時間?|厚生労働省が示した美容室の線引き
更新日:2026年9月14日
- 労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれている時間」で、契約や就業規則の定めではなく実態で決まります。
- 厚生労働省のリーフレットは、美容室の練習を「労働時間に該当しないと考えられる事例」として挙げています。
- 該当しないとされるのは、実施の有無と内容を本人に委ね、使用者が実施状況を確認していない場合です。
- 開店前の掃除や後始末は、ガイドラインで労働時間として扱うべき例に挙げられています。
- 取扱いは労使で話し合い、書面で明確化しておくことが望ましいとされています。
労働時間かどうかは、実態で決まります
結論として、労働時間にあたるかどうかは、契約書や就業規則にどう書いてあるかではなく、実態で判断されます。
根拠となるのは、最高裁が平成12年3月9日の判決で示した枠組みです。労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、その該当性は、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものとされています。
厚生労働省のガイドラインも同じ表現を採っています。労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示または黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる、というものです。
具体的に押さえておきたいのは「黙示の指示」という部分です。明確に「やりなさい」と言っていなくても、やらざるを得ない状況を作っていれば、指揮命令下と評価される可能性があります。「自主的にやっている」という説明が、必ずしも通るわけではありません。
注意点として、この判断は個別の事情によります。同じ「練習」という言葉でも、店ごとに運用が違えば結論も変わります。だからこそ、行政が示した具体的な事例が実務では役に立ちます。
- 労働時間は「使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指します。
- 契約や就業規則の定めではなく、客観的な実態で判断されます。
- 明示の指示だけでなく、黙示の指示も含まれます。
- 同じ「練習」でも、運用によって結論が変わります。
厚生労働省が挙げた「美容室の練習」の事例
結論として、厚生労働省は美容室の練習を、労働時間に該当しないと考えられる事例として挙げています。
2026年6月に厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署の名義で公表されたリーフレット「労働時間の考え方:『研修・教育訓練』等の取扱い」に、次の記載があります。
「始業時刻前または終業時刻後に、会社が練習の場所や道具を貸し出しているが、練習を行うかどうかや練習内容は労働者に委ねられており、使用者は、練習の実施状況や内容について特に確認等を行っていない(美容室、建設業)」
ここから読み取れる条件は3つです。練習を行うかどうかが本人に委ねられていること。練習の内容も本人に委ねられていること。そして使用者が実施状況や内容を特に確認していないこと。場所や道具を貸すこと自体は、労働時間の判断を左右しないという整理になります。
一方、同じリーフレットには労働時間に該当すると考えられる事例も挙げられています。自由参加のサークル活動として位置づけられた勉強会だが、使用者があらかじめ参加者、日時、場所を決定しており、参加後にレポートの提出を求められ、遅刻や欠席に対して指導が行われていた例。形式上は自由参加の研修だが、受講することが正社員になるための要件とされ、参加できるよう使用者がシフトを調整していた例。
注意点として、これらの事例から見えてくる分かれ目は次の4点です。日時・場所・参加者を会社が決めていないか。レポートや報告など成果物を求めていないか。人事評価や昇格、デビューの条件になっていないか。参加できるようシフトを調整していないか。ひとつでも当てはまれば、労働時間に傾くと考えられます。
あわせて読みたい:- 厚生労働省のリーフレットに、美容室の練習が事例として明記されています。
- 該当しないとされるのは、実施の有無と内容を本人に委ね、確認もしていない場合です。
- 場所や道具を貸すこと自体は、判断を左右しないとされています。
- 日時の指定、成果物の要求、評価との接続、シフト調整があれば労働時間に傾きます。
開店前の掃除と朝礼は、原則として労働時間です
結論として、開店前の掃除や閉店後の後始末は、労働時間として扱うべきものとされています。
理由は、厚生労働省のガイドラインが具体例として明記しているためです。労働時間として扱わなければならない例のひとつに、「使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間」が挙げられています。
朝礼についても、厚生労働省のサイトに掲載されている整理では、指揮監督下に義務的に行われる場合には労働時間となるとされています。機械の点検や整理整頓も、通常は業務への従事として労働時間になるとされています。
具体例として、美容室で想定される場面を挙げます。9時開店で、8時30分に集合して掃除と朝礼を行い、タイムカードは9時に押す。この運用は、掃除と朝礼が事実上義務づけられているのであれば、8時30分からの30分が未払いになっている可能性があります。
注意点として、対応の選択肢は2つしかありません。始業時刻を掃除や朝礼の開始時刻に合わせるか、時間外として賃金を支払うかです。「サービスでやってもらう」は選択肢になりません。
- ガイドラインは準備行為と後始末(清掃等)を労働時間の例に挙げています。
- 朝礼も、指揮監督下に義務的に行われる場合は労働時間とされています。
- タイムカードの打刻時刻と実際の始業時刻がずれていないか確認が必要です。
- 対応は「始業時刻を合わせる」か「時間外として支払う」かの二択です。
予約が空いている時間を、一律に休憩扱いしない
結論として、予約が入っていない時間を一律に休憩として扱う運用には、リスクがあります。
理由は、休憩時間の定義にあります。行政解釈では、休憩時間とは単に作業に従事しない手待ち時間を含まず、労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間とされています。逆に、使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機している時間は、手待ち時間として労働時間になります。
具体例として、完全予約制の美容院をめぐる裁判例があります。東京地方裁判所の令和2年9月17日判決では、会社側が「予約が入っていない時間はほぼすべて休憩時間である」と主張しましたが、裁判所は、来客がない時間に業務を行っていない時間が相当程度あったとしても、直ちに労働からの解放が保障されていたとはいえないとして、この主張を認めませんでした。この事案では、労働時間管理を行っていなかったことが問題視され、未払賃金と同額の付加金の支払いも命じられています。なお、この判決は控訴されています。
注意点として、休憩を実質化するには運用の工夫が必要です。時間帯を決めて店外に出られるようにする、電話や来店対応の担当を交代制にする、休憩を取った記録を残す。こうした運用が、休憩であることの裏づけになります。
- 休憩は「権利として労働から離れることを保障されている時間」です。
- 即時の対応を求められる待機時間は、手待ち時間として労働時間になります。
- 予約の空き時間を一律に休憩とした運用が、裁判で認められなかった例があります。
- 休憩を実質化する運用と、その記録を残すことが必要です。
記録の取り方と、端数の扱い
結論として、労働時間は客観的な記録で把握することが原則とされ、日ごとの端数の切り捨ては認められていません。
理由は、厚生労働省のガイドラインが把握の方法を定めているためです。原則的な方法として、使用者が自ら現認することと、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し適正に記録することが挙げられています。自己申告制による場合は、入退場記録などとの間に著しい乖離が生じているときには実態調査を行うこととされ、労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないともされています。
端数の扱いについては、都道府県労働局・労働基準監督署のリーフレットに明記があります。1日ごとに、一定時間に満たない労働時間を一律に切り捨て、その分の賃金を支払わないことは労働基準法違反とされています。認められるのは、1か月における時間外労働、休日労働、深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げる処理だけです。
具体例として、厚生労働省が公表した賃金不払の是正事例には、始業直前・終業直後の15分間について、業務に従事していたか否かにかかわらず一律に切り捨てる処理が慣例化していた例が挙げられています。美容室で見られる15分単位・30分単位の丸めも、日ごとの切り捨てである限り同じ問題を抱えます。
注意点として、賃金の請求権の消滅時効は、現在は当分の間3年とされています。未払いがあれば、その期間さかのぼって請求される可能性があります。加えて、裁判では未払額と同額までの付加金が命じられることがあります。
あわせて読みたい:- 労働時間はタイムカード等の客観的な記録で把握するのが原則です。
- 自己申告制の場合、記録との著しい乖離があれば実態調査が必要です。
- 1日ごとの切り捨ては労働基準法違反とされています。
- 賃金請求権の時効は当分の間3年で、付加金が加わる可能性もあります。
10月までに整えるなら、この3つ
結論として、優先すべきは「練習の取扱いを書面にする」「始業時刻を実態に合わせる」「休憩の運用を決める」の3つです。
理由は、厚生労働省のリーフレットが、まさにこの点について具体的な助言を示しているためです。リーフレットには次の記載があります。「会社での『研修・教育訓練』の時間が労働時間に該当するかについては、あらかじめ労使で取扱いを話し合い、確認しておきましょう」。さらに、「通常の勤務場所とは異なる場所を設けて行うことや、通常勤務でないことが外形的に明確に見分けられる服装により行うことなどを定め、こうした取扱いの実施手続を書面により明確化することが望ましい」とも書かれています。
1. 練習の取扱いを書面にする
練習を労働時間として扱うのか、本人の自主的な活動として扱うのか。後者にするのであれば、実施の有無と内容を本人に委ね、報告や確認を求めない運用にしたうえで、その取扱いをスタッフと話し合って書面に残します。デビュー審査や評価と結びつけないことも明記しておきます。
2. 始業時刻を実態に合わせる
掃除や朝礼を行っているなら、その開始時刻を始業時刻にします。タイムカードの打刻も、その時刻から行う運用に変更します。開店時刻と始業時刻は別物である、という整理をスタッフとも共有してください。
3. 休憩の運用を決める
何時から何時までを休憩とするのか、その間の電話や来店対応を誰が担うのか。交代制にして、実際に労働から離れられる時間を確保します。休憩を取った記録も残します。
注意点として、これらの見直しは人件費の増加につながる可能性があります。だからこそ、労働時間の把握と同時に、稼働率や1人あたりの生産性も一緒に見ておくことをおすすめします。何時間働いているかを正しく把握できて初めて、生産性の議論ができるようになります。
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あわせて読みたい:- 練習の取扱いは労使で話し合い、書面で明確化することが望ましいとされています。
- 自主的な活動とするなら、報告や確認を求めず、評価とも結びつけません。
- 掃除や朝礼を行うなら、その開始時刻を始業時刻にします。
- 休憩は時間帯と担当を決め、実際に離れられる状態と記録を作ります。
まとめ:行政が示した事例に、自店を当てはめてみる
2026年6月に厚生労働省が公表したリーフレットには、美容室の練習が労働時間に該当しないと考えられる事例として明記されています。条件は、実施するかどうかと内容が本人に委ねられており、使用者が実施状況や内容を確認していないこと。場所や道具を貸すこと自体は問題になりません。
逆に、日時や参加者を店が決めている、レポートを求めている、デビューや評価の条件にしている、参加できるようシフトを調整している。このいずれかに当てはまるなら、労働時間として扱う前提で運用を組み直す必要があります。
開店前の掃除や朝礼はガイドラインが労働時間の例に挙げており、予約の空き時間を一律に休憩とする運用は裁判で否定された例があります。まずは自店の運用を、この記事で挙げた事例に当てはめてみてください。判断に迷う点や、就業規則の見直しが必要かどうかは、所轄の労働基準監督署や社会保険労務士へご相談ください。
FAQ:練習時間と労働時間について、よくある質問
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