美容師の雇用契約書作成ガイド
美容師の雇用契約書作成ガイド|労働条件・勤務時間・賃金規定の必須記載事項

美容師の雇用契約書作成ガイド|労働条件・勤務時間・賃金規定の必須記載事項

更新日:2025年11月10日

美容室開業時、雇用契約書の作成は法令遵守と人材定着の両面で欠かせません。労働基準法第15条では労働条件の書面明示が義務付けられており、賃金・労働時間・休日などを明確に記載しなければトラブルの原因となります。本記事では、新規オーナー向けに雇用契約書で必ず記載すべき事項と、美容業界特有の注意点を実務に即して解説します。
【大事なこと】労働基準法第15条により、雇用契約書での労働条件明示は法律上の義務です。
賃金(基本給・歩合給の内訳)、労働時間、休日、雇用形態は必須記載事項となります。
書面での契約締結がトラブル防止と優秀な人材確保の第一歩です。
社会保険加入義務や割増賃金規定も正確に記載する必要があります。
契約書の不備は労働トラブルや罰則の原因となるため、専門家の確認が推奨されます。

雇用契約書が必要な理由と法的根拠

美容室経営において雇用契約書の作成は単なる事務作業ではありません。労働基準法第15条は、使用者が労働者を雇用する際、賃金や労働時間といった労働条件を書面で明示することを義務付けています。

この法的義務を怠ると、労働基準監督署から是正勧告を受けるだけでなく、30万円以下の罰金が科される可能性があります。また、労働条件が不明確なまま雇用すると、スタッフとの認識の齟齬が生じ、給与トラブルや突然の離職につながるリスクが高まります。

美容業界では入社3年以内の離職率が50%以上に達するというデータがあり、その背景には労働環境や待遇への不満が存在します。明確な雇用契約書は、スタッフに安心感を与え、長期的な信頼関係を築くための基盤となるのです。

【要点まとめ】

  • 労働基準法第15条により労働条件の書面明示は法律上の義務
  • 違反すると30万円以下の罰金や是正勧告の対象となる
  • 明確な契約書はトラブル防止と人材定着の基盤
  • 美容業界の高い離職率の背景には待遇や条件への不満がある

労働条件の必須記載事項:賃金規定の明確化

雇用契約書で最も重要な項目が賃金規定です。美容師の給与体系は基本給、歩合給、各種手当など複数の要素で構成されるため、それぞれの内訳を明確に記載する必要があります。

基本給と歩合給の明示

美容師の給与は固定給のみの場合と、基本給に歩合給を加算する場合があります。アシスタントの初任給は月給20.8万円から23万円程度が一般的ですが、スタイリストになると売上に応じた歩合制を導入するサロンが多くなります。

歩合給を採用する場合、売上のどの部分に対して何パーセントが還元されるのか、計算方法を具体的に明記しましょう。例えば「技術売上の10%を歩合給として支給」といった形で、スタッフが自分の収入を予測できるようにすることが大切です。

最低賃金の保証

雇用契約では最低賃金法に基づく賃金保証が必須です。業務委託契約の場合は労働法の対象外となり最低賃金が保証されませんが、雇用契約では最低賃金×労働時間で算出された基本給を必ず保証しなければなりません。

2025年現在、都道府県ごとに最低賃金が設定されているため、開業地域の最低賃金を確認した上で基本給を設定する必要があります。

賃金の支払い方法と時期

賃金は通貨で直接労働者に、毎月1回以上、一定の期日に支払うことが労働基準法で定められています。契約書には「毎月末日締め、翌月25日支払い」のように、具体的な支払日を明記しましょう。また、賃金支払い明細書の交付も義務付けられています。

【要点まとめ】

  • 基本給と歩合給の内訳を具体的に明記する
  • 歩合給の計算方法を分かりやすく記載する
  • 最低賃金法に基づく基本給の保証が必須
  • 支払日と支払方法を具体的に定める
  • 賃金支払い明細書の交付義務を認識する

労働時間と休憩時間の正確な規定

美容業界は長時間労働が常態化しやすい業界ですが、労働基準法では法定労働時間が厳格に定められています。雇用契約書には所定労働時間と休憩時間を明確に記載し、法令遵守の姿勢を示すことが重要です。

法定労働時間の原則

労働基準法では、1日8時間・週40時間までが法定労働時間とされています。この時間を超えて労働させる場合、36協定の締結と労働基準監督署への届出が必要となります。

契約書には「所定労働時間は1日8時間、週40時間とする」といった形で明記し、始業時刻と終業時刻も具体的に記載しましょう。例えば「始業時刻9時、終業時刻18時」のように定めます。

休憩時間の付与義務

労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩時間を労働時間の途中に与えなければなりません。美容室の営業時間が長い場合でも、この休憩時間の確保は法律上の義務です。

休憩時間は労働者が自由に利用できる時間であり、接客待機や電話番などを命じることはできません。契約書には「労働時間8時間に対し、休憩時間1時間を付与する」と明記しましょう。

時間外労働と割増賃金

法定労働時間を超える労働には、通常の賃金に加えて割増賃金の支払いが義務付けられています。残業は25%以上、深夜労働(22時から翌朝5時)は25%以上、休日労働は35%以上の割増率となります。

営業時間後の練習や研修も労働時間に含まれるため、無給での時間外労働は違法です。契約書には時間外労働が発生する可能性と、その際の割増賃金率を明記する必要があります。

【要点まとめ】

  • 法定労働時間は1日8時間・週40時間が原則
  • 労働6時間超で45分、8時間超で1時間の休憩が必須
  • 時間外労働には割増賃金(残業25%、深夜25%、休日35%)が必要
  • 営業時間後の練習も労働時間に含まれる
  • 36協定の締結と届出で時間外労働が可能になる

休日規定と年次有給休暇の取り扱い

休日制度も雇用契約書における重要な記載事項です。労働基準法では週1日以上の休日付与が義務付けられており、年次有給休暇も雇用期間に応じて付与しなければなりません。

法定休日の確保

使用者は労働者に対し、毎週少なくとも1回、または4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。美容業界では完全週休二日制の導入が人材確保の重要な要素となっており、優秀なスタッフを採用するためには業界水準以上の休日設定が求められます。

契約書には「毎週火曜日と第2・第4水曜日を休日とする」のように、具体的な休日を明記しましょう。シフト制を採用する場合は「月8日以上の休日を付与する」といった記載方法もあります。

年次有給休暇の付与

雇用から6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者には、10日間の年次有給休暇を付与する義務があります。その後、継続勤務年数に応じて付与日数が増加していきます。

2019年の労働基準法改正により、年10日以上の有給休暇が付与される労働者については、年5日は使用者が時季を指定して取得させることが義務化されました。契約書にはこの有給休暇制度についても明記しておくことが望ましいです。

【要点まとめ】

  • 週1日以上または4週4日以上の休日付与が法律上の義務
  • 完全週休二日制は人材確保の競争力となる
  • 雇用6か月後に年次有給休暇10日の付与が必要
  • 年5日の有給取得義務化に対応する必要がある

雇用形態の明確化:正社員・パート・業務委託の違い

美容業界では正社員雇用のほか、パートタイム労働者や業務委託といった多様な働き方が存在します。雇用契約書では雇用形態を明確に記載し、それぞれに適した労働条件を設定する必要があります。

正社員雇用の特徴

正社員として雇用する場合、期間の定めのない労働契約となります。社会保険の加入義務があり、雇用保険、健康保険、厚生年金保険、労災保険の手続きが必要です。従業員1名以上を雇用する場合、これらの社会保険への加入は法律で義務付けられています。

正社員は安定した雇用と福利厚生を享受できる反面、美容業界では給与水準が全産業平均を下回る傾向にあります。優秀な人材を確保するためには、業界水準以上の基本給と明確なキャリアパスの提示が重要です。

パートタイム労働者の条件

パートタイム労働者として雇用する場合でも、労働条件の書面明示義務は変わりません。所定労働時間が短いことや、時給制であることを明確に記載しましょう。また、一定の要件を満たすパート労働者には社会保険の加入義務が生じることにも注意が必要です。

業務委託との違い

業務委託契約は雇用契約とは法的性質が異なり、労働基準法の適用を受けません。そのため最低賃金の保証や労働時間規制、社会保険の適用がありません。売上の40%から60%程度を報酬として還元する形態が一般的ですが、収入の不安定さや確定申告の必要性などデメリットも存在します。

サロン経営者は、実質的に指揮命令関係がある場合、業務委託契約ではなく雇用契約とみなされる可能性があることを認識しておく必要があります。偽装請負とならないよう、契約形態と実態を一致させることが重要です。

【要点まとめ】

  • 正社員雇用では社会保険加入が法律上の義務
  • パート労働者も労働条件明示義務の対象
  • 業務委託は労働法の適用外で最低賃金保証がない
  • 実態が雇用関係なら業務委託契約でも違法となる可能性
  • 雇用形態ごとに適切な労働条件の設定が必要

社会保険加入手続きと契約書への記載

従業員を雇用する美容室経営者には、社会保険への加入義務があります。雇用契約書にも社会保険に関する記載を盛り込み、労使双方の理解を明確にしておくことが重要です。

加入が義務付けられる社会保険

従業員1名以上を雇用する事業所は、以下の社会保険への加入が法律で義務付けられています。まず労災保険は、業務上の災害や通勤災害による負傷や疾病を補償する保険で、全額事業主負担となります。

雇用保険は、失業時の生活保障や雇用の安定を図る保険で、事業主と労働者の双方が保険料を負担します。健康保険と厚生年金保険は、常時5人以上を雇用する個人事業主、または法人の事業所で加入義務が生じます。

保険料の負担割合

健康保険と厚生年金保険の保険料は、労使折半が原則です。つまり、保険料の半分を事業主が、残り半分を労働者が負担します。労働者負担分は毎月の給与から控除されるため、雇用契約書には「社会保険料の労働者負担分は給与から控除する」旨を明記しておくとよいでしょう。

試用期間中の取り扱い

試用期間中であっても、社会保険加入義務は変わりません。試用期間を設ける場合は、その期間(通常3か月程度)と、期間中の労働条件が本採用後と異なる場合はその内容を契約書に明記する必要があります。

【要点まとめ】

  • 従業員1名以上で労災保険と雇用保険の加入が義務
  • 一定規模以上で健康保険と厚生年金保険の加入が必要
  • 保険料は労使折半が原則で給与からの控除を明記する
  • 試用期間中も社会保険加入義務は変わらない

就業規則との関係と整合性の確保

常時10人以上の労働者を雇用する事業場では、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています。雇用契約書と就業規則の内容に矛盾がある場合、労働者に有利な方が適用されるため、両者の整合性を保つことが重要です。

就業規則の必須記載事項

就業規則には、始業・終業時刻、休憩時間、休日、賃金の決定・計算・支払方法、退職に関する事項などを必ず記載しなければなりません。これらは雇用契約書の記載事項とも重複するため、内容を統一しておく必要があります。

個別契約と就業規則の関係

就業規則は事業場全体に適用される統一的なルールであり、雇用契約書は個別の労働者との約束事です。個別の雇用契約で就業規則より有利な条件を定めることは可能ですが、就業規則より不利な条件を定めることはできません。

例えば、就業規則で年間休日100日と定めている場合、個別の雇用契約で年間休日90日とすることは無効となり、就業規則の100日が適用されます。新規開業時から将来的な規模拡大を見据え、就業規則のひな形を準備しておくことが推奨されます。

【要点まとめ】

  • 常時10人以上雇用で就業規則の作成・届出が義務
  • 雇用契約書と就業規則の内容を統一する必要がある
  • 矛盾がある場合は労働者に有利な方が適用される
  • 個別契約で就業規則より不利な条件は設定できない

トラブル防止のための追加記載事項

法定の必須記載事項に加え、美容業界特有のトラブルを防ぐための条項を雇用契約書に盛り込むことも重要です。後々の紛争を避けるため、想定されるリスクに対して事前に取り決めを明確化しておきましょう。

秘密保持と顧客情報の取り扱い

美容室では顧客の個人情報や施術履歴など、機密性の高い情報を扱います。スタッフが退職後にこれらの情報を持ち出し、競合サロンで利用するといったトラブルを防ぐため、秘密保持義務に関する条項を設けることが推奨されます。

ただし、退職後の競業避止義務については、労働者の職業選択の自由を過度に制限することはできません。合理的な範囲内で、地域や期間を限定した規定にとどめる必要があります。

技術研修と費用負担

美容業界では開店前の練習や外部セミナーへの参加など、技術研修の機会が多くあります。これらの研修が労働時間に該当するのか、費用は誰が負担するのかを明確にしておくことで、後々の認識の違いを防げます。

業務命令として参加を義務付ける研修は労働時間となり、賃金支払いの対象です。一方、任意参加の自主練習は労働時間に該当しないと整理できますが、事実上の強制とならないよう配慮が必要です。

解雇・退職の条件

解雇や退職に関する条件も、トラブルの多い項目です。解雇については労働基準法や労働契約法で厳格な要件が定められており、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。

労働者からの退職については、期間の定めのない契約の場合、2週間前に申し出ることで退職できることが民法で定められています。契約書では「退職する場合は少なくとも1か月前に申し出ること」といった規定を設けることが一般的ですが、これは民法の規定より厳しいため、強制力には限界があります。

【要点まとめ】

  • 秘密保持義務の条項で顧客情報の持ち出しを防ぐ
  • 競業避止義務は合理的な範囲に限定する必要がある
  • 技術研修の労働時間該当性と費用負担を明確化する
  • 解雇には客観的合理性と社会通念上の相当性が必要
  • 退職予告期間は民法の2週間が最低基準

まとめ:適切な雇用契約書で信頼関係を構築する

雇用契約書の作成は、美容室経営における法令遵守の基本であると同時に、スタッフとの信頼関係を築く出発点です。労働基準法第15条が定める労働条件の書面明示義務を守り、賃金・労働時間・休日・雇用形態といった必須事項を明確に記載することで、トラブルを未然に防ぐことができます。

美容業界では長時間労働や低賃金が離職の大きな要因となっており、入社3年以内に50%以上が退職するというデータもあります。明確で公正な労働条件を提示することは、優秀な人材を確保し定着させるための重要な施策です。

契約書作成に不安がある場合は、社会保険労務士や弁護士といった専門家に相談することをおすすめします。初期投資として専門家の助言を得ることで、将来的な労務トラブルのリスクを大幅に削減できます。

適切な雇用契約書は、オーナーとスタッフ双方を守る重要な文書です。法令を遵守し、透明性の高い労働条件を提示することで、安心して働ける職場環境を実現しましょう。それが結果として、顧客満足度の向上とサロンの持続的な成長につながっていきます。

よくある質問(FAQ)

Q. 雇用契約書を作成しないとどうなりますか?
A. 労働基準法第15条違反となり、30万円以下の罰金が科される可能性があります。また、労働条件が不明確なためスタッフとのトラブルが発生しやすく、突然の離職や給与に関する紛争の原因となります。優秀な人材確保の観点からも、明確な契約書の作成は必須です。
Q. 業務委託契約と雇用契約の違いは何ですか?
A. 業務委託契約は労働基準法の適用を受けないため、最低賃金保証や労働時間規制、社会保険適用がありません。報酬は売上の40〜60%程度が一般的ですが、収入が不安定になるリスクがあります。実質的に指揮命令関係がある場合、業務委託契約でも雇用とみなされる可能性があるため注意が必要です。
Q. アシスタントとスタイリストで契約内容を変える必要がありますか?
A. 職務内容や責任範囲が異なるため、賃金体系(基本給と歩合給の比率)や業務内容については契約書で明確に区別することが推奨されます。ただし、労働時間や休日などの基本的な労働条件は、職種によって不合理な差をつけることはできません。昇格時には新たな契約書を交わすか、変更契約書を作成しましょう。
Q. 試用期間中は社会保険に加入しなくてもよいですか?
A. 試用期間中であっても社会保険加入義務は変わりません。従業員1名以上を雇用する場合、労災保険と雇用保険への加入は必須です。試用期間は通常3か月程度で設定し、その期間と本採用との条件の違いがあれば契約書に明記する必要があります。
Q. 営業時間後の技術練習は労働時間に含まれますか?
A. 業務命令として参加を義務付けられた研修や練習は労働時間に該当し、賃金支払いの対象となります。任意参加の自主練習は労働時間に該当しませんが、事実上の強制とならないよう配慮が必要です。契約書や就業規則で研修の位置づけと費用負担を明確にしておくことで、トラブルを防げます。

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