美容室の給与制度、歩合と固定給で定着率が変わる選び方

歩合か固定か?スタッフが続く給与の考え方

更新日:2025年9月23日

スタッフの定着率向上は、美容室・美容サロン経営において最も重要な課題の一つです。多くのオーナー様が頭を悩ませるのが「歩合制と固定給、どちらがスタッフのモチベーションと長期定着に効果的なのか」という問題です。この記事では、それぞれの給与制度のメリット・デメリットを詳しく解説し、スタッフが安心して働き続けられる給与制度の設計方法をご紹介します。読み終えた頃には、貴店にとって最適な給与制度の考え方が明確になり、スタッフの定着率向上への具体的な道筋が見えてくるでしょう。

1. 美容業界の給与水準と離職率の現状

厳しい現実:高い離職率と低賃金構造

美容業界が抱える最も深刻な課題は、圧倒的に高い離職率です。業界全体では入社3年以内の離職率が50%以上、10年以内では約90%に達するというデータがあります。この背景には、給与水準の低さと労働環境の厳しさという構造的な問題が存在します。

厚生労働省の調査によると、美容師の平均年収は約379.7万円で、全産業平均の381.96万円とほぼ同水準です。しかし、職種別に見ると大きな格差があります。

職種別年収の実態:
・アシスタント:約180〜220万円
・スタイリスト:約300〜360万円
・店長・マネージャー:約400〜500万円

離職理由トップ5

データが示すスタッフの離職理由は以下の通りです:
1 サロンの雰囲気やテイストが合わなかった
2 給与に不満があった
3 仕事とプライベートの両立が難しい
4 仕事内容がハード
5 結婚・妊娠・出産のため
重要なのは、表面的な理由の背後に「本音を言えない組織風土」や「将来への不安」といった心理的要因が隠されていることです。

<要点>
・美容業界の離職率は全業種平均を大幅に上回る
・給与水準は職種・経験年数により大きく異なる
・離職理由は給与だけでなく労働環境や人間関係も重要
・表面的な理由の奥にある本質的課題への対処が必要
・スタッフが本音を言える環境づくりが定着率向上の鍵

2. 固定給制度のメリットとデメリット

固定給制度のメリット

収入の安定性による安心感 固定給最大のメリットは、スタッフにとっての収入安定性です。毎月決まった金額が保証されるため、生活設計が立てやすく、特に新人や経験の浅いスタッフにとっては精神的な安心感につながります。体調不良で休んだ場合や、顧客数が少ない時期でも収入が保証される点は、スタッフの安全網として機能します。
チームワークと協力体制の促進 固定給制度では個人の売上競争が激化しにくく、スタッフ同士が協力しやすい環境が生まれます。先輩が後輩の指導に時間をかけたり、繁忙時にサポートしあったりといった、サロン全体の成長につながる行動が促進されます。
長期的な人材育成 安定した収入が保証されることで、スタッフは技術習得や自己研鑽に集中できます。売上を気にして短期的な成果ばかりを求める必要がなく、じっくりと基礎技術を身につけ、長期的なキャリア形成を考えられる環境が整います。

固定給制度のデメリット

モチベーション維持の課題 努力の成果が給与に直接反映されないため、高いパフォーマンスを発揮するスタッフのモチベーション維持が困難になることがあります。頑張りが報われない感覚は、優秀な人材の流出リスクを高める可能性があります。

人件費の予測可能性とコスト負担 売上が低迷しても人件費は固定で発生するため、経営者にとってはコスト管理の負担が重くなります。特に閑散期や予期しない売上減少時には、経営圧迫要因となる可能性があります。

<要点>
・固定給は収入安定によりスタッフの安心感を生む
・チームワーク促進と長期的人材育成に有効
・モチベーション維持と経営コストが課題
・新人や基礎技術習得期には特に効果的
・労働法による最低賃金保証があり法的保護が充実

3. 歩合制度のメリットとデメリット

歩合制度のメリット

努力と成果の直結による高いモチベーション 歩合制の最大の魅力は、スタッフの努力と収入が直接連動することです。売上を伸ばせば伸ばすほど収入が増加するため、自然と技術向上や接客スキルアップへの意欲が高まります。指名客を増やす努力や、店販売上への貢献といった、サロン全体の収益向上につながる行動が促進されます。
高収入の可能性と自己実現 実力のあるスタイリストにとって、歩合制は固定給を大幅に上回る収入を得られる可能性があります。神奈川県では業務委託モデルで月給24万円から120万円まで幅広いレンジが報告されており、売上の40%から60%が還元されることが一般的です。

経営側のコスト効率性 売上に連動して人件費が変動するため、閑散期のコスト負担を軽減でき、経営の安定性が向上します。また、スタッフの売上貢献が明確になるため、人材投資の効果測定も容易になります。

歩合制度のデメリット

収入の不安定性とリスク 歩合制最大のデメリットは収入の変動です。顧客数の少ない時期や体調不良で働けない期間には収入が大幅に減少するリスクがあります。特に新人や経験の浅いスタッフにとっては、生活が不安定になる可能性があります。
チーム内競争の激化 個人の売上が直接収入に影響するため、スタッフ間で顧客の奪い合いが生じる可能性があります。新人指導や同僚サポートよりも自分の売上優先となり、チームワークが悪化するリスクがあります。
短期思考と顧客満足度への影響 売上を重視するあまり、無理な営業や短期的な利益追求に走る可能性があります。顧客の真のニーズよりも高額メニューの提案を優先してしまい、長期的な顧客満足度や信頼関係構築に悪影響を与える恐れがあります。

<要点>
・歩合制は努力の成果が収入に直結し高いモチベーションを生む
・実力のあるスタッフは高収入を実現できる可能性がある
・収入不安定性とチーム内競争激化のリスクが存在
・短期思考による顧客満足度低下の恐れもある
・経営側にとってはコスト効率性が向上する

4. 業務委託モデルという選択肢

業務委託の特徴と魅力

近年急速に拡大している業務委託モデルは、従来の雇用関係とは異なる新しい働き方です。これは従来の正社員雇用が抱える「給与の低さ」「労働時間の長さ」という不満に直接的に応える形として注目されています。
高い歩合率と柔軟な働き方 業務委託の最大の魅力は、売上の40%から60%という高い歩合率と、完全自由出勤制による柔軟な働き方です。自分の顧客を多く持つスタイリストにとっては、雇用契約に縛られることなく、頑張った分だけ収入を増やせる理想的な働き方といえます。

集客サポートと新規顧客獲得 多くの業務委託サロンでは、サロンが集客を担ってくれるため、自己集客に自信がない美容師でも新規顧客に多く接客する機会を得られます。これは独立開業と比較した場合の大きなメリットです。

業務委託のリスクと注意点

収入の不安定性 固定給がないため、顧客数が少ない場合や体調を崩して働けない時期には収入が激減するリスクがあります。また、確定申告などの事務作業や材料の発注・管理を自己で行う必要があり、施術以外の業務負担が増加します。
法的保護の限界 業務委託契約は労働法の対象外となるため、最低賃金の保証がありません。雇用契約では最低賃金×労働時間で算出された基本給が保証されますが、業務委託にはそのような法的保護がありません。

経営者の戦略的判断

サロン経営者は、業務委託モデルが自社のチーム文化やビジョンとどのように共存できるかを戦略的に検討する必要があります。業務委託モデルは単なるコスト削減策ではなく、労働者側の「自由と自己実現」への強い欲求に応える形で拡大している構造的変化として理解することが重要です。

<要点>
・業務委託は高い歩合率と柔軟な働き方を実現
・集客サポートにより新規顧客獲得機会を提供
・収入不安定性と法的保護の限界がリスク
・事務作業負担と自己管理責任の増大
・経営者は自社文化との整合性を戦略的に判断する必要

5. スタッフの成長段階に応じた給与制度設計

アシスタント期の給与設計

固定給中心の安定性重視 アシスタント期(入社〜2年程度)は、技術習得に集中できる環境を整えることが最優先です。この時期は固定給を中心とし、月給20万円以上の設定を推奨します。現在の相場では20.8万円から23万円程度が一般的ですが、人材確保競争を考慮すると、より高い水準の設定が効果的です。

技術習得インセンティブの導入 基本給に加えて、技術テストの合格や資格取得に対する手当を設けることで、成長への動機付けを行います。例えば、シャンプー技術テスト合格で5,000円、カラー技術テスト合格で10,000円といった具体的な目標設定が有効です。

スタイリスト初期の制度設計

基本給+歩合のハイブリッド型 スタイリストデビュー後(3〜5年目程度)は、安定性と成長意欲の両方を満たすハイブリッド型が効果的です。基本給18〜20万円を保証し、それに加えて売上の一定割合(15〜25%程度)を歩合として支給する制度設計を検討します。

指名料制度の活用 顧客からの指名に対して1件あたり500〜1,000円の指名料を設定することで、顧客満足度向上への直接的なインセンティブを提供します。これは技術力向上と接客スキル向上の両方を促進する効果があります。

ベテランスタイリストの処遇

高歩合率と裁量権の拡大 経験豊富なスタイリスト(5年目以降)には、基本給を抑えて歩合率を高める(30〜40%)制度や、業務委託への移行選択肢を提供することを検討します。また、新人指導や店舗運営への参画に対する別途手当も設定します。

<要点>
・アシスタント期は固定給中心で安定性を重視
・技術習得インセンティブで成長動機を促進
・スタイリスト初期は基本給+歩合のハイブリッド型が効果的
・指名料制度で顧客満足度向上を直接評価
・ベテランには高歩合率と裁量権拡大を検討

6. 定着率を高める評価制度の構築

多角的評価制度の重要性

売上偏重の評価から脱却し、スタッフの多面的な貢献を正当に評価する制度設計が、長期定着の鍵となります。

<技術力評価>
・3ヶ月以内にシャンプー技術テストに合格
・指定期日までにカットモデル担当数を達成
・外部セミナーや研修への参加実績
<顧客満足度・リピート率>
・顧客アンケートで満足度90%以上を維持
・指名リピート率70%以上を達成
・口コミやレビューでの高評価獲得
<チーム貢献度>
・ミーティングでの発言回数や提案内容
・後輩へのOJT指導時間と質
<サロン全体の雰囲気づくりへの貢献>
・店舗売上貢献度
・店販売上目標の達成
・新規顧客獲得への貢献
・イベントや企画への積極参加

透明性の高い評価運用

キャリアパスの明確化 厚生労働省が提供するキャリアマップや職業能力評価シートを活用し、アシスタントからスタイリスト、店長、さらには独立まで、各ステップで求められるスキルや能力を明確に示します。
定期的なフィードバック 月1回の個別面談を実施し、評価結果と改善点を具体的にフィードバックします。この際、スタッフの話を最後まで否定せずに聞く「傾聴」の姿勢を徹底することで、本音を引き出し、課題の早期解決を図ります。

<要点>:
・売上以外の多角的評価で総合的な貢献を評価
・技術力、顧客満足度、チーム貢献度を均等に重視
・キャリアパスを明確化し将来への安心感を提供
・定期面談による透明性の高いフィードバック
・傾聴を重視した本音を引き出すコミュニケーション

7. 給与以外で重要な働き方改革の視点

労働環境の改善

労働時間の適正化 多くの美容師が週50〜60時間以上働き、年間休日は平均90日前後と少ない傾向にあります。POSシステムや予約管理システムの導入により業務を効率化し、実労働時間の削減を図ることが重要です。営業時間自体の短縮も、スタッフのワークライフバランス改善に有効です。

完全週休二日制の導入 休日数の増加は人材を惹きつける上で極めて効果的です。現在多くのサロンが週1.5日制を採用していますが、完全週休二日制への移行は競合との差別化要因となります。

コミュニケーション文化の醸成

感謝を伝える文化 日頃から「○○さん、〜〜してくれてありがとう」のように、具体的に感謝を伝える文化を醸成することで、スタッフは自分が大切にされていると感じ、モチベーションが飛躍的に高まります。
定期的な個別ミーティング スタッフの不満は日々の些細な不満が積み重なった結果として表面化します。この「不満の氷山」が大きくなる前に発見し、解決するために、定期的な個別ミーティングを設け、スタッフが気兼ねなく本音を打ち明けられる場を作ることが重要です。

成長支援と教育制度

体系的な研修制度 技能研修(シャンプー、カット等)とマナー研修(接客、言葉遣い等)を体系化し、メンター制度を導入して新人の成長を加速させます。キャリアアップ助成金などを活用すれば、外部講師を招くなどして質の高い研修を低コストで実現できます。

<要点>
・ 労働時間適正化と完全週休二日制で働きやすさを向上
・具体的な感謝表現でスタッフのモチベーション向上
・定期個別ミーティングで不満の早期発見・解決
・体系的研修制度とメンター制度で成長支援
・助成金活用により低コストで高品質な教育を実現

まとめ

歩合制と固定給のどちらが優れているかという問いに対する答えは、「サロンのビジョンとスタッフの成長段階による」というのが結論です。

重要なのは、単一の給与制度に固執するのではなく、スタッフの成長段階や個人の価値観に合わせて柔軟に制度を設計することです。アシスタント期は固定給で安定性を提供し、スタイリスト期にはハイブリッド型で成長意欲を刺激し、ベテランには高歩合率や業務委託といった選択肢を用意する多段階的なアプローチが効果的です。
さらに重要なことは、給与制度だけでなく、労働環境の改善、感謝を伝える文化の醸成、透明性の高い評価制度、そして継続的な成長支援といった総合的な「働きがい」の提供です。これらの要素が相互に作用することで、スタッフは長期的に安心して働き続けることができ、結果としてサロンの安定経営と成長が実現されます。
今こそ、従来の給与制度を見直し、スタッフ一人ひとりの成長と幸福を追求する「人的資本経営」への転換を図る時です。それが、激化する競争環境の中で持続的な成長を遂げる唯一の道といえるでしょう。

FAQ

Q1: 固定給から歩合制に変更する場合、どのようなことに注意すべきでしょうか?

A1: 制度変更は慎重に進める必要があります。まず現在のスタッフの売上実績を分析し、歩合制移行後の収入シミュレーションを作成します。収入が大幅に下がる可能性があるスタッフには移行期間を設け、最低保証額を設定するなどの配慮が必要です。また、制度変更の理由と将来性について十分な説明を行い、スタッフの理解と納得を得ることが重要です。変更は一度に全員ではなく、希望者から段階的に実施することも検討してください。

Q2: 新人スタッフのモチベーション維持と固定給の両立は可能でしょうか?

A2: 十分可能です。固定給制度でも、技術習得マイルストーンに対する手当や、顧客満足度評価に基づく賞与を設定することで、努力と成果が報われる仕組みを作れます。重要なのは金銭的報酬だけでなく、成長の実感と将来への希望を提供することです。定期的な技術テストの実施、外部研修への参加機会、明確なキャリアパスの提示などにより、新人スタッフのモチベーション維持は十分に可能です。

Q3: 業務委託スタッフと正社員スタッフを同じサロンで混在させることはできますか?

A3: 法的には可能ですが、運営面で注意が必要です。業務委託スタッフは事業主として扱う必要があり、正社員と同様の指揮命令や労働時間管理はできません。また、待遇格差による不公平感やチーム内の摩擦が生じる可能性があります。混在させる場合は、それぞれの役割と責任を明確に区分し、公平性を保つためのルール整備が不可欠です。むしろ、サロン全体として一貫した雇用方針を持つことを推奨します。

Q4: スタッフの給与アップ要求にどう対応すべきでしょうか?

A4: まず要求の背景を丁寧にヒアリングすることから始めます。単純な金額アップだけでなく、仕事への不満や将来への不安が隠れている場合が多いためです。客観的な評価基準に基づいて現在のパフォーマンスを確認し、給与アップに見合う貢献度や成長を具体的に示してもらいます。すぐに給与アップが困難な場合でも、明確な達成目標と期限を設定し、達成時の処遇改善を約束することで、スタッフの納得と継続的なモチベーション向上を図ることができます。

Q5: 地方のサロンでも都市部と同水準の給与設定は必要でしょうか?

A5:  地域の物価水準や競合状況を考慮した適正な給与設定が重要です。無理に都市部と同水準にする必要はありませんが、地域内での相対的な競争力は重要です。給与面で劣る場合は、労働環境の良さ(通勤時間の短さ、アットホームな雰囲気等)や、地域に根ざした働きがい、将来の独立支援制度など、給与以外の魅力を強化することで人材確保は十分可能です。地方には地方の良さがあることを自信を持ってアピールし、それを求める人材とのマッチングを図ることが成功の鍵となります。

自社予約システムと予約管理システムをワンストップで導入可能

予約管理からデータ分析まで

予約管理のお悩みを一括解決!

ご要望に合わせて最適な機能・料金プランを
ご提案します。

関連記事

基本的なサロン管理機能はもちろん
他にはない機能が多数そろっています。

BeautyMeritの
お申し込み・お問い合わせはこちら

お電話でのお問い合わせ

03-6277-2658

受付時間10:00〜18:00
平日のみ(土・日・祝はお休みになります)